2020年2月20日 公演評「極夜 polar night」

評:田野倉 康一



アトリエ第Q藝術1Fホールにて『極夜 polar night』
最も散文的な存在であるやましんさんが最も詩的な場所に居る!そして歩行するやましんさんに対して、貝ヶ石奈美の究極のダンスはまさに詩そのものだ。
川津望は語っているし、歌っているのだが、言葉の世界にはいない。その事だけでも凄いのだが、そこをダンスとはまるで体の使い方が違う月読さんがダンスでもない、歩行でもない動きで幾度も横切っていく。一見月読さんだけが言葉の世界に居るように見えるが、言葉による対話者が居ない以上、それはやはり言葉の世界ではない。
その要所々々で鳴る方波見さんの作り出す音は、縄文の石笛か、それ以上のなにかを場にもたらす。なんでもまぜればいいと言う訳ではない。時には「まぜるな、キケン」である。

しかし、今夜、ここに出来したのは、ひとつのトータルとしての詩であり、特にやましんさんが体現したように裂け目破れ目を無数にもったトータル、言い換えるなら、貝ヶ石奈美さんが次々と繰り出す人間として極限を思わせる動き、そこには「人間」が溢れていて、しかも人間が日常の所作、動作からは思いもよらない動きをして、しかもそれが日常に当たり前のように接続されている、日常と非日常、死と生といったもの、最後には人形振りにも生を吹き込むような無限の突出をも孕んだトータルがそこに実現する。
まさにこれこそが詩だ。